Toccata MARCと著作権

 

 

 

Prepared by Keiji TORIUMI

 

 

2001322

 

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Table of Contents

 

序文 / 所有権 vs 著作権 / データベースに対する法的保護 / データベース作成と著作権 / 著作者の権利 / Toccata MARCの著作権登録 / 著作権法による保護の限界

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序文

このドキュメントでは, Toccata MARCが著作権法によるデータベースの著作物として保護されていること, また, 保護されている権利について説明します. なお, ここでは法律上の微妙な問題を扱うことになるため, 下記の文献を参考にしました. 記述中でこれらの文献から引用した部分にはその記号と該当ページを付してあります. また罫線で囲んである部分は関係する著作権法の条文です.

 

(a)          著作権法概説 / 田村義之著. 有斐閣, 1998. ISBN 4-641-04473-2

(b)          著作権法ハンドブック / 文化庁文化部著作権課内著作権法令研究会編著. 著作権情報センター, 1996. ISBN 4-88526-007-8

(c)           著作権法. 全訂二版. 学陽書房, 1996. ISBN 4-313-31478-4

(d)          最新コンピュータプログラム著作権Q&A / 植松宏嘉著. 金融財政事情研究会, 1994. ISBN 4-322-16133-2

(e)          図書館サービスと著作権 / 日本図書館協会著作権問題委員会編. 日本図書館協会, 1994. ISBN 4-8204-9322-1

(f)             データベースの法的保護について. データベース振興センター, 1998.2 (データベースの知的財産権に関する調査, 別添資料)

(g)          著作権法改正の要点 / 藤田節子. (情報の科学と技術 ; v. 48, 4 (1998))

所有権 vs 著作権

「手紙を書いて他人に送った場合, この手紙の所有権は受取人に移転するが, その手紙の文面の著作権, すなわち手紙を複製を禁止する権利は差出人である手紙の筆者に留保されているのが通常である (a), p. 2. この一文は無体物である著作() , その著作物を収めた有体物 (著作物が固定されているメディア媒体) との権利上の関係を簡潔に表現したものです. この一文に記されている, 著作物を収めた有体物を所有する権利と, その有体物に固定された無体物である著作の著作権とは別ものであるという法律上の区別を正しく把握することが, 著作権問題を理解する第一歩です. この問題を Toccata MARC に置き換えてみると, データベースの著作物である Toccata MARC データベースから, 書誌レコードを抽出し特定の媒体に固定した納品物の所有権は, 納品された図書館等の機関に移転しますが, 納品物に固定されている無体物であるToccata MARC の著作権はデータベースの作者である弊社に留保されているのです.

データベースに対する法的保護

(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 十の三  データベース 論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう。

 

(データベースの著作物)
第十二条の二 データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
前項の規定は、同項のデータベースの部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。
 (昭六一法六四・追加)

 

データベースは, 著作権法によって法的に保護されています. Toccata MARCのような文献データベースも例外ではありません. 著作権法 (2110号の3) によれば, データベースとは「論文, 数値, 図形その他の情報の集合物であって, それらの情報を電子計算機を用いて検索できるように体系的に構成したもの」をいいます. 「体系的な構成とは, コンピュータで検索するためのコード, 個々の情報の属性 (数値なのか文字なのかなど), 情報の文字数や桁数等を設定し, それに従って情報を整理し, 組み立てること (a), p. 16」です. 文献データベースとは, 「文献の主題・書誌的事項・要旨などの項目によって検索するデータが要求に合致するかどうかを判断する手掛かりを与え, あるいは資料源を案内するなどの機能を持つ (c), p. 262」とされています. Toccata MARCはこれらの定義そのものです. 一部には「図書館でよく利用する書誌には, よほどの創作性がない限り, 著作権は認められない (e), p. 135」という意見もあるようですが, 逆に, 「著作権法の要求する創作性の程度はそれほど高いものを要しないので, POSシステムによって自動的に生成する通常の顧客データベースは, 創作性ありとして著作権法の保護の対象になる (d), p. 67」という法律家の判断もあります. そもそも, 著作権法第2条の定義に含まれる体系的な構成という条件を満たすには, ある程度以上の創作性があればよいと考えられます. 以上のようにToccata MARCは創作性のあるデータベースであり, 著作権法で保護されているのです.

データベース作成と著作権

他人の著作物を著作者に無断でフル・テキスト入力し, データベース化することは著作権侵害になります. また, 抄録の作成などは著作物の変形または翻案に該当し, 変形権または翻案権を侵害する恐れもあります. しかし, Toccata MARCのように, 著作物を見て入力する情報がそのタイトルや, 著作者名, 発行者, 発行年などの場合は, 対象がいずれも著作物ではないので著作権を侵害することはありません.

著作者の権利

著作者に認められる権利には, 著作者人格権と財産権としての著作権があります. データベースが著作物である以上, 著作権法17条に列挙されている権利全てが対象になります.

(1) 著作者人格権

a)       公表権

b)       氏名表示権

c)        同一性保持権

(2) 著作権

d)       複製権

e)       上演権および演奏権

f)          公衆送信権等 ([1])

g)       口述権

h)       展示権

i)          上映権および頒布権

j)          貸与権

k)       翻訳権, 翻案権等

l)          二次的著作物の利用に関する原著作者の権利

著作者人格権

「著作物は, 著作者の思想, 感情の表現物であり, 勝手に著作物を公表されたり, 内容を変えて利用されるような場合には, 著作者の人格的利益が損なわれるおそれがあります. そこで, 著作者の人格的な利益について, 単に道義的な問題にとどめず, 法律上の保護を図ることにしており, これを著作人格権といいます (a), p. 30. Toccata MARCのような文献データベースは, もちろん思想, 感情の表現物ではありませんが, 著作物である以上は, 著作者である弊社に著作人格権が発生します. 以下, 著作人格権の3つの権利について, 弊社の見解を述べます.

公表権

(公表権)
第十八条  著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。次項において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。
 著作者は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に掲げる行為について同意したものと推定する。
 一  その著作物でまだ公表されていないものの著作権を譲渡した場合 当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること。
 二  その美術の著作物又は写真の著作物でまだ公表されていないものの原作品を譲渡した場合これらの著作物をその原作品による展示の方法で公衆に提示すること。
 三  第二十九条の規定によりその映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属した場合当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること。

 

公表権とは, まだ発表されていない著作物を公衆に提供, または提示する権利ですが, 弊社が個々の媒体に複製して納入したToccata MARC, サーバーやホスト・コンピュータにアップロードし, データ検索が可能になった時点で公表されたものとします.

氏名表示権

(氏名表示権)
第十九条  著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。
  著作物を利用する者は、その著作者の別段の意思表示がない限り、その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従つて著作者名を表示することができる。
  著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。

 

著作者は, 著作物の原作品に氏名等を表示, または表示しない権利を有します. データベースは無形の著作物なので, 提示方法や形態にさまざまなケースが考えられます. ここでは Toccata MARCが図書館内での所蔵資料の管理や整理業務, OPAC等による利用者検索などのために, つまり使用範囲を館内に限定して納入されているケースを例にして弊社の見解を述べます.

(1)     図書館内のOPAC等での検索 著作権表示は任意ですが, 可能であれば検索のメニュー画面などに表示することを希望します. 表示形式にはつぎのものがあります.

Toccata MARC 著作権者: 株式会社トッカータ

Toccata MARC (C) copyright by TOCCATA Corporation

(2)     冊子目録の編纂 タイトル・ページ, または奥付けに (1) と同等の表示をするか, または序文等の説明文中に著作権者の記述が必要となります (後者の場合, 記述方法は自由です).

(3)     同一機関, 同一法人に属する分館等とのオンライン接続 この場合は (1) に準じます.

(4)     別法人, または別の自治体などとのオンライン接続 この場合には検索のメニュー画面などで表示することが必須条件です.

(5)     インターネット等での公衆への公開 この場合は (4) に準じます. また, 弊社 Home Page http://www.toccata.co.jp/」へのリンクをお願いしています.

同一性保持権

(同一性保持権)
第二十条  著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
  前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
 一  第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
 二  建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
 三  特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変
 四  前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
    (昭六〇法六二・2項三号追加四号一部改正)

 

著作物およびその著作者の意に反して変更, 切除, その他の改変を受けないという権利です. 図書館内での使用については, この権利を弊社が行使することはありません. 納入されたToccata MARCを自由に加工することができます. ただし, インターネット等で公衆へ公開する場合には, 氏名表示権とも合わせて事前に協議させていただくことがあります. 書誌データの詳細画面に関する弊社の見解と, 弊社が推奨する詳細表示の実例を, ここをクリックして ぜひご一読ください.

著作(財産)

「著作者は, 著作者人格権とともに財産権としての著作権を有しています. この著作権とは, 著作物を出版, 上演, 放送等の方法により利用することに関する排他的, 独占的な権利であり, 著作権法は, これらの権利を著作者が専有することを規定しています. 実体面では著作権とは自己の著作物を他人が利用することについて許諾又は拒否する権利であるともいえます (a), p. 34. 著作権法では, 著作権の内容を, この項目の冒頭で示したような種類に分けて規定しています. この中には「上演権および演奏権」のように, 現状のToccata MARCには関係なさそうな項目もあるため, ここでは文献データベースに直接関係する2つの項目, 複製権と公衆送信権に絞って, 弊社の見解を述べることにします.

複製権

(複製権)
第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

 

著作者は, その著作物を複製する権利を専有しています (21). 複製権は著作権制度における基本的な権利です. 複製とは「印刷, 写真, 複写, 録音, 録画その他の方法により有形的に再製すること」 (2115) とされており, 雑誌記事を複写機でコピーしたり, 放送された映画をビデオに録画することのほか, テキストや楽譜を手書きで写すこと, さらにコンピュータからのプリントアウトを見て, 別のコンピュータに手入力再製することも該当します. また, 「複製とは, 隅から隅まで全てそっくりに再製することばかりでなく, 多少の修正増減を施す場合も含みます. また, 一部分の再製であっても, その部分が著作物性のあるものであれば複製権が働きます (a), p. 35. この問題をToccata MARCの頒布に置き換えて考えてみます.

 

(1)     FD等の媒体に収録して, または FTP e-Mail 等の送信方式で納入されるToccata MARC, 弊社内の目録データベースの部分的複製物です. 上記の解説に従えば, この部分的複製物にも著作物性があるため, 複製権が働きます.

(2)     有償で納入されるToccata MARCの対価は著作権を譲渡するものではなく, 図書館内での使用を許諾するものです. つまり, 納入されたToccata MARCの複製権は弊社にあります. 場合によってはバックアップ用のコピーなども複製権に抵触する可能性がありますので, 納入されたデータの複製が必要な場合には弊社までご相談ください.

公衆送信権

(公衆送信権等)
第二十三条  著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
  著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
  (昭六一法六四・見出し1項2項一部改正、平九法八六・見出し全改1項2項一部改正)

 

(著作物の利用の許諾)
第六十三条  著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。
  前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。
  第一項の許諾に係る著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができない。
  著作物の放送又は有線放送についての第一項の許諾は、契約に別段の定めがない限り、当該著作物の録音又は録画の許諾を含まないものとする。
  著作物の送信可能化について第一項の許諾を得た者が、その許諾に係る利用方法及び条件(送信可能化の回数又は送信可能化に用いる自動公衆送信装置に係るものを除く。)の範囲内において反復して又は他の自動公衆送信装置を用いて行う当該著作物の送信可能化については、第二十三条第一項の規定は、適用しない。
  (昭六一法六四・4項一部改正、平九法八六・5項追加)

 

著作者は, その著作物を公衆送信する権利を専有しています (23). 公衆送信とは, 片方向で同一内容・同時送信を行う放送や有線放送, および双方向のインタラクティヴ送信を全て含み (272), このうち, 有線・無線を問わずインタラクティヴ送信を「自動公衆送信」といい (294), データベースのオンライン・サービスや, 図書館の目録をインターネットで公開し検索サービスを行うことなどが「自動公衆送信」該当します. なお, 著作物をサーバー (著作権法では「自動公衆送信装置」と呼びます) にアップロードして, 公衆がアクセスできるようにすることを「送信可能化」といい (295), この権利も公衆送信権に含まれます.

 

(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 七の二  公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。
 九の四  自動公衆送信 公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。
 九の五  送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
  イ  公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
  ロ  その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。 

 

(1)     図書館内でのOPAC等の検索は, Toccata MARCの使用許諾に含まれます. また, 同一構内でのLANによるオンライン検索は一般的なデータベースの利用形態に含めることができ, 公衆送信権を侵害することにはなりません.

(2)     同一法人, または同一の自治体内であっても, 地域館 (分館・分室) 等の同じ構内にはない機関と, オンライン接続を行ってToccata MARCを公開することは公衆送信権を侵害する恐れがあります. 事前に弊社までご相談ください.

(3)     別法人, または別の自治体などとオンライン接続を行ってToccata MARCを第三者に公開すること, また, インターネット等で公衆に対する目録検索サービスを行うことは公衆送信権の侵害となります. 事前に弊社の許諾が必要です.

Toccata MARCの著作権登録

Toccata MARCデータベースとその頒布用データファイルは, 著作権の登録制度によって文部科学省 (文化庁), ソフトウェア情報センター (SOFTIC) に登録されています. 登録手続き完了の通知はそれぞれ (文化庁 / SOFTIC) をクリックすると見ることができます. また謄本等の内容は下記の表にある登録番号をクリックすると見ることができます.

 

著作物の題号

登録先

登録番号

Toccata MARC Universal Edition

文化庁

第17267号の1

Toccata MARC JP Edition

文化庁

第17268号の1

Toccata MARC FixL Edition

文化庁

第17269号の1

図書館用目録作成データベース

SOFTIC

P第6823号−1

著作権法による保護の限界

データベースは, 著作権法によって法的に保護されてはいますが, 近年のディジタル化, ネットワーク化の進展によって, 著作権を侵害しないような形でのデータベースの再利用が見られるようになってきました. このため, ヨーロッパ各国を中心に, 著作権法による保護に加えて, 新たにデータベースの作成に要する投資を保護するための新しい法制が検討されています.

著作権法による保護と現状

ここで, もう一度著作権法による保護の観点を確認してみます. データベースは著作権法によって保護されています. しかし入力されている著作物のタイトルや, 著作者名, 発行者, 発行年等のデータそのものが著作物として保護されているわけではありません. そこで著作権法では, 「どのような情報をデータベースに入れるか (素材の選択), どのように情報をデータベースの中で並べるか (素材の配列) にオリジナリティーがあることに着目して, データベースに見られる「素材の選択または配列」の創作性に対して保護を与えています (f), p. 1.

 

データベースの利用方法が紙へのプリントアウトや専用端末での検索結果表示といった方法にとどまっているうちは, 元のデータベースが著作権法によって保護されているというだけで十分でした. ところが, 最近では, データベースを検索した結果のファイルや, 場合によっては元のデータベースをまるごとダウンロードし, データを加工して使う利用が広まってきています. このような場合, 「ユーザーが自分の使いたいデータだけを独自の判断で選別し, それを自らの使い勝手に合わせて配列しなおしていれば, オリジナルのデータベースの選択も配列も盗用していない (f), p. 2」というケースが発生する可能性もあります. つまり, 「元のデータベースに著作権はあるのだけれども, その著作権を侵害しないで新たに大量のデータだけ活用するようなケースが, 情報技術の進展によって簡単にできるようになってしまったのです (f), p. 2.

新たな保護法制の動き

このような時代の流れに対して, データベース先進国であるEU諸国やアメリカ合衆国では, 新しい保護法を制定する動きが具体化しています. この新しい保護法制の特徴は, 「素材の選択もしくは配列の創作性が侵害されているかいないかに関わらず, データベースの素材の収集, 加工, 提供に要した投資を保護する (f), p. 3」という点にあります. つまり, 投資のかかったデータの無断使用を規制する法律ということができます. 具体的には, 例えば 19963月にEU各国で採択された新たな権利「Sui Generis Right」を創設する合意では「再利用権」と「抽出権」という2つの権利を用意しています. 前者は「データベースの実質的部分を多数の人に利用させる行為 (例えば自分のCD-ROM製品に大量のデータを取り込んでしまうような行為) に対する禁止権を意味し (f), p. 4, 後者は「データベースの実質的部分を別の媒体に移送する行為 (例えば, 自分が利用するために自分のハードディスクに取り込んだりパソコンで処理したりする行為) に対する禁止権を意味しています (f), p. 4. 日本でも, こうした海外の動きに対応して, 新しい保護法制の検討が始まっているようです. 近い将来, データベースの利用者が著作権法に加えて, 投資のかかったデータを保護する別の法律に対しても神経を使わなければならない時代が来るかも知れません.

 



([1]) 著作権法は平成96月に一部改正され, 「放送権, 有線送信権等」は「公衆送信権」に改められました.